ステーブルコインの発行・管理会社を創業した立場から
「試す段階」から「使える段階」へ
日本円建てのステーブルコインが、いよいよ実際に使える段階に入りました。2025年10月にJPYCの発行が始まり、2026年4月時点で累計発行額は21億円を超えています。SBIグループは信託型の「JPYSC」を発表しました。3メガバンクは共同発行するステーブルコインについて、2026年度中に実際の取引を始めることを目指しています。
ステーブルコインは、1コインがおおむね1円の価値を保つように設計された、ブロックチェーン上のデジタルなお金です。日本では2023年の改正資金決済法で「電子決済手段」として位置づけられ、価格が大きく動く暗号資産とは区別されています。
なぜ日本円のステーブルコインなのか
私がステーブルコインの会社を創業したときに確信していたのは、世界的にも安定性の高い日本円には、価値を貯めておく手段としても、支払いの手段としても、国際的に使われるニーズがあるということです。
ブロックチェーン上のステーブルコインには、取引の記録を誰もが確かめられる透明性、仲介を減らせる効率のよさ、そしてお金の動きをプログラムで制御できる柔軟さがあります。これから増えていく国境を越えた企業間取引や個人向けの取引で、大きな価値を持つと考えました。送金手数料の負担や、マネーロンダリング・テロ資金供与対策(AML/CFT)の重さといった、いまの金融機関が抱える負担を軽くする手段にもなり得ます。
企業の何が変わるのか
1. 企業間の「多頻度・少額」の支払いを自動化できる
最初に試すなら、取引先との間で回数が多く、一回の金額が小さい支払いが向いています。請求書のデータと支払いをブロックチェーン上で直接つなげば、支払いから入金の消し込み(突き合わせ)までをリアルタイムで自動化できます。ステーブルコインは、DXの取り組みの一部として組み込めるのです。
2. 海外への送金が速く、安くなる
もう一つは国際送金です。銀行経由の海外送金は数日かかり、手数料や為替のコストも数%に及ぶことがあります。ステーブルコインなら、時間もコストも大きく抑えられます。日本の本社から海外の子会社への資金移動などは、特に効果が分かりやすい使い道です。
3. ポイントや会員と「お金」がつながる
日常生活で貯めたポイントを、たとえば米ドルに連動するステーブルコインに交換できたらどうでしょう。それはつまり、米ドル建ての資産を持つということです。持っておくだけで運用になり、状況に応じてそのまま支払いや送金にも使える。この姿は、決して遠い未来の話ではありません。
導入をためらう理由は「技術」ではない
送金のスピードや手数料に魅力を感じる経営者は、確実に増えています。それでも利用が広がらない理由は、ウォレットの管理、会計ソフトとの連携、決算の対応への不安です。特別なスキルを持つチームを抱えなければならないのでは、という心配もよく聞きます。
実際には、ステーブルコインを使う日本企業の多くが、専用の補助会計ツールで対応しています。ウォレットにひもづく取引データを自動で取り込み、日本円に換算して、主要な会計ソフト向けのデータとして出力するツールです。会計処理そのものに、大きな問題があるわけではありません。
むしろ壁になりやすいのは、社内の取締役や、社外の税理士・監査法人に説明し、納得してもらうことです。東京ではあまり聞かなくなりましたが、地方の経営者からは今もこの苦労をよく聞きます。
信頼を支えるのは「地味な管理」
発行・管理の現場でいちばん気を配るのは、一般の暗号資産と大きくは変わりません。秘密鍵やウォレットのセキュリティ、そしてAML/CFTへの対応です。加えて、ステーブルコインで特に重要なのが、裏付けとなる資産の保全と分別管理です。どれか一つでも傷がつけば、利用者は離れていきます。
小さなスタートアップが、秘密鍵の分散管理や相互牽制の仕組みをまじめに作り、保ち続けるのは、大きなコストがかかります。それでも、日本でステーブルコインがこれから育っていく大事な時期だからこそ、信頼を損なうことだけはしてはいけないと考えてきました。
日本の利用者を、もっと信頼していい
新しい支払い手段が日本で広まるには時間がかかります。電子マネーもクレジットカードも、普及には20〜30年かかったという感覚があります。「日本円でいいじゃないか」と考える人が多く、これほどATMが多い国も珍しいでしょう。
ただ、だからこそ、わざわざ日本円を別のものに替えて支払いや送金に使ってきた人たちには、柔軟さがあります。その積み重ねが、すでに下地をつくっています。
「日本人が暗号資産やステーブルコインで日常の買い物をすることはない」とよく言われます。本当にそうでしょうか。既存の金融機関も、大手の決済事業者も、新しい技術で世の中を変えたいと考える経営者の皆さんも、日本の一般の利用者を、もっと信頼していいのではないかと思います。
ORADAにできること
ORADAは、ステーブルコインの発行・管理を行う会社の創業と、金融庁登録の暗号資産交換業者での経営の経験をもとに、金融・Web3事業の立ち上げを支援しています。事業スキームづくりから管理体制、システムの開発と運用まで、一つの窓口でご相談いただけます。

