ステーブルコインの発行・管理会社を創業した立場から
ステーブルコイン、トークン化預金、CBDC(中央銀行デジタル通貨)。どれも「デジタルな円」に見えますが、発行するのも法律上の性質も違います。トークン化預金は銀行預金そのもので、国内の銀行口座を持つ企業どうしの取引に向いています。ステーブルコインは銀行の枠を超えて国内外の相手と動かせますが、ウォレットや会計の準備が必要です。CBDCは、日本ではまだ発行が決まっていません。どれを使うかは、「何のために、誰とお金を動かすか」で決まります。
この記事の要点
- トークン化預金は「預金をブロックチェーン上で管理するもの」。預金保険の対象で、会計やルールはいまの預金とほぼ同じ
- ステーブルコインは「法定通貨を対価に発行されるコイン」。取引相手は国内外に広がるが、ウォレット管理やデジタル資産としての会計処理が要る
- 判断の軸は「銀行の枠を超えて、新しいデジタルな経済圏でお金を動かす理由があるか」
なぜ「どちらを使えばいいか」が分かりにくいのか
一番の理由は、ステーブルコイン・トークン化預金・CBDCの3つが、頭の中で整理されていないことです。
現場から:「トークン化預金」という言葉が誤解を生む
企業の方から「トークン化預金とステーブルコイン、どちらを使えばいいですか」とよく聞かれます。ただ、この質問が出る時点で、3つの違いが整理できていないことが多いと感じています。
特に誤解を生みやすいのが「トークン化預金」という言葉です。「トークン化」と聞くと、何か新しいデジタル資産のように聞こえます。しかし中身は、法律上は銀行預金のままです。まずこの前提をそろえないと、「どちらを使うか」の議論はかみ合いません。
ステーブルコイン・トークン化預金・CBDCとは?
3つを一文ずつ定義すると、次のとおりです。
ステーブルコインとは
ステーブルコインとは、法定通貨を対価としてブロックチェーン上に発行され、1コインがおおむね1円(または1ドル)の価値を保つように設計されたデジタルなお金です。日本では2023年6月の改正資金決済法で「電子決済手段」と位置づけられ、価格が大きく動く暗号資産とは区別されています。発行できるのは、資金移動業者と、信託銀行・信託会社です。
トークン化預金とは
トークン化預金とは、銀行の預金者と残高のデータをブロックチェーン上で管理する仕組みです。お金の性質は普通の銀行預金と変わらず、発行するのは銀行です。日本ではディーカレットDCPの「DCJPY」が代表例です。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは
CBDCとは、中央銀行が直接発行するデジタルな法定通貨です。日本銀行は2023年4月からパイロット実験を続けていますが、発行するかどうかはまだ決めていません。
3つの違いを比較表で整理
金融庁が2026年9月に示した比較をもとに、企業の目線で整理しました。
| ステーブルコイン | トークン化預金 | CBDC(参考) | |
|---|---|---|---|
| 発行するのは | 資金移動業者、信託銀行・信託会社 | 銀行 | 中央銀行 |
| 法律上の性質 | 電子決済手段 | 銀行預金 | 法定通貨(日本では未発行) |
| 価値の裏付け | 預金や国債などの準備資産 | 銀行の資産 | 中央銀行の信用 |
| 使える相手 | 国内外。発行体の外へも転々と流通できる | 原則として、その銀行やネットワークに口座を持つ相手 | 設計次第 |
| 預金保険 | 対象外 | 対象 | ー |
| 利息 | 付けられない | 付けられる | 設計次第 |
| 企業に必要な準備 | ウォレット管理、デジタル資産としての会計処理、AML/CFT(マネロン対策)への目配り | ほぼ不要。いまの預金と同じ扱い | ー |
| 日本の主な例 | JPYC、JPYSC、3メガバンクの共同発行(準備中) | DCJPY(GMOあおぞらネット銀行、ゆうちょ銀行など)、北國銀行「トチカ」 | なし |
※金融庁も注記しているとおり、発行の仕組みによって特徴が異なる場合があります。
トークン化預金が向いているのはどんな企業か
トークン化預金が向いているのは、国内の取引先どうしで、決済の自動化を進めたい企業です。
トークン化預金は、銀行口座を持っている企業に使い手が限られます。そのため、国内の事業者どうしの取引が前提になります。その代わり、法律上は銀行預金のままなので、企業会計やルールを新たに意識せずに使えます。
国内では動きが続いています。DCJPYは2024年にGMOあおぞらネット銀行が発行を始め、ゆうちょ銀行も2026年度の発行を予定しています。北陸銀行は2027年度中のサービス開始をめざしてディーカレットDCPと基本合意しました。ツルハホールディングスや花王グループなど9社の実証では、受発注データから支払い、売掛金の照合までを自動化できることが確かめられています。
現場から:「だったら円のままでいいのでは」という問い
トークン化預金の強みは、安定していることです。銀行の信用力があるから安全で、何も新しいことをしなくていい。
ただ、裏を返せば「だったら日本円の預金のままでいいのでは」という考えも成り立ちます。トークン化預金を選ぶなら、24時間の即時決済や、請求・支払・消込の自動化など、いまの振込ではできないことを何に使うのかをはっきりさせておくべきです。
ステーブルコインが向いているのはどんな企業か
ステーブルコインが向いているのは、銀行の枠を超えて、海外の相手や新しいデジタルな経済圏とお金をやり取りしたい企業です。
ステーブルコインは、取引の相手が国内外まで広がります。海外子会社への資金移動、海外の取引先への支払い、ブロックチェーン上のサービスとの連携などに使えます。
その代わり、準備が必要です。ウォレット(秘密鍵)の管理を理解し、デジタル資産としての会計処理を整える必要があります。
国内の主な動きは次のとおりです。
- JPYC:資金移動業者型として2025年10月に発行を開始。累計発行額は2026年5月時点で25億円を超えています。ただし第二種資金移動業の枠のため、1回の移転は100万円以下です
- JPYSC:SBI新生信託銀行が信託型として2026年6月に提供を始めました
- 3メガバンクの共同発行:信託型で、2026年度中の実取引開始をめざしています。2026年10月には、三菱商事の国内外の拠点間の決済を想定した実証の結果が公表されました
現場から:「銀行の枠を超える理由」があるか
ステーブルコインを検討するときに、根本で考えるべきなのは一つです。銀行の枠を超えて、新しいデジタルな経済圏で資金を移動し、決済できるようにする理由があるか。
海外とのやり取りが多い、ブロックチェーン上のサービスと連携したい、取引先がすでにステーブルコインを使っている。こうした理由があれば、ウォレットや会計の準備をする価値があります。理由がなければ、無理に使う必要はありません。
境界は少しずつ近づいている
3メガバンクの共同発行ステーブルコインは、預金を裏付けにし、銀行で本人確認を済ませた利用者の間で流通させる設計を想定しています(2026年10月時点)。ステーブルコインでありながら、トークン化預金に近い性格も持つ形です。名前だけで判断せず、誰が発行し、誰と使えるのかを個別に確かめることが大切です。
CBDCを待つべきか
企業が「CBDCが出るまで待つ」理由は、いまのところ薄いと考えます。
日本銀行は発行するかどうかを決めておらず、企業の決済にいつ使えるのかの見通しも立っていないからです。
米国は、さらにはっきりしています。大統領令で連邦機関によるCBDCの取り組みを禁じる一方、民間のステーブルコインを法律で位置づけました。それが次に説明するGENIUS法です。
米国GENIUS法の最終規則で何が変わったか(2026年10月)
米国では、民間のステーブルコインを「決済の担い手」とする制度づくりが最終段階に入りました。
米通貨監督庁(OCC)は2026年10月21日(米国時間)、GENIUS法を実施するための最終規則を公表しました。GENIUS法は2025年7月に成立した、決済用ステーブルコインを規制する米国初の連邦法です。法律と規則は2027年1月18日に施行されます。
主な内容は次のとおりです。
- 準備資産で1対1以上の裏付けを持つこと(現金や米国債など)
- 償還には原則として2営業日以内に応じること
- 発行体は、保有しているだけの利用者に利息を払ってはならないこと
日本企業にとっての意味は二つあります。一つは、米ドル建てステーブルコインの「信頼の枠組み」が固まり、海外の取引先が使い始める場面が増えることです。もう一つは、日本の電子決済手段と同じく「利息は付けない、決済の道具」という位置づけがそろったことです。
結局、どちらを使うべきか:3つの問い
「どちらを使うべきか」の答えは、どう使いたいかで決まります。次の3つの問いで考えると整理しやすくなります。
| 問い | トークン化預金が合う | ステーブルコインが合う |
|---|---|---|
| 取引相手は誰か | 国内の、銀行口座を持つ企業 | 海外の企業や、ブロックチェーン上のサービスも含む |
| 何を変えたいか | 国内の決済・消込の自動化、24時間の即時決済 | 国境や銀行の枠を超えた送金・決済 |
| 準備できるか | 新しい準備はほぼ要らない | ウォレット管理と会計処理の体制をつくれる |
迷ったら、まず「取引相手」を見てください。国内で完結するならトークン化預金から、海外や外部のサービスとつながるならステーブルコインから検討するのが近道です。
よくある質問
Q. トークン化預金とステーブルコインの一番の違いは何ですか?
A. トークン化預金は銀行預金そのもので、預金保険の対象です。ステーブルコインは準備資産で価値を裏付けたデジタルなお金で、銀行の外にも流通できますが、預金保険の対象外です。
Q. JPYCはトークン化預金ですか?
A. いいえ。JPYCは資金移動業者が発行するステーブルコイン(電子決済手段)です。1回の移転は100万円以下に限られます。
Q. DCJPYはステーブルコインですか?
A. いいえ。DCJPYは銀行が発行するトークン化預金です。法律上は銀行預金として扱われます。
Q. トークン化預金に利息は付きますか?
A. 付けることができます。一方、ステーブルコインは日本でも米国でも、保有しているだけで利息を付けることは認められていません。
Q. CBDCが発行されたら、ステーブルコインは不要になりますか?
A. 日本銀行はCBDCを発行するかどうかをまだ決めていません。米国は民間のステーブルコインを法律で位置づけており、当面は民間のデジタルマネーが企業の決済を担う流れです。
Q. 企業がまず試すなら、どちらがよいですか?
A. 取引相手で決まります。国内の銀行口座を持つ企業どうしならトークン化預金、海外や外部のサービスとやり取りするならステーブルコインから検討するのが現実的です。
参考資料
- 金融デジタル化への対応(金融庁長官講演資料、2026年9月1日)
- 3メガ銀、共同発行ステーブルコインで国際決済の実証を完了(CoinPost、2026年10月16日)
- 3メガバンク共同”信託型”ステーブルコイン 26年度中に実取引へ(Impress Watch、2026年6月10日)
- OCC Bulletin 2026-52(米通貨監督庁、2026年10月21日)
- 北陸銀行とディーカレットDCPの基本合意(北陸銀行、2026年6月16日)
- JPYC、シリーズBで追加調達(THE BRIDGE、2026年8月)
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ORADAは、ステーブルコインの発行・管理を行う会社の創業と、金融庁登録の暗号資産交換業者での経営の経験をもとに、金融・Web3事業の立ち上げを支援しています。トークン化預金とステーブルコインのどちらが自社に合うかの整理から、仕組みづくり、システムの開発と運用まで、一つの窓口でご相談いただけます。

