ステーブルコインの発行・管理会社を創業した立場から
ステーブルコインの会計処理は、多くの経営者が思うより単純です。国内の円建てステーブルコイン(資金決済法の第1号〜第3号電子決済手段)は、会計上は現金と同じように券面額で計上でき、暗号資産のような期末の時価評価は要りません。企業が実際につまずくのは、処理そのものではなく、①取引の証跡を示すこと、②秘密鍵を管理する体制、③取締役・税理士・監査法人に説明して納得してもらうことの3つです。
この記事の要点
- 国内の円建てステーブルコインは、企業会計基準委員会(ASBJ)の実務対応報告第45号により、券面額で計上し、キャッシュ・フロー計算書でも「現金」に含める
- 日々の処理は、ウォレットの取引データを取り込んで会計ソフトに渡す補助ツールで回る
- 導入前に用意すべきは「会計方針のメモ」「鍵と承認の体制」「説明資料1枚」
ステーブルコインの会計処理は難しいのか?
難しくありません。国内の円建てステーブルコインは、会計上は預金に近い扱いになります。
実務対応報告第45号で何が決まっているか
ASBJは2023年11月、実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」を公表しました。保有する企業の処理は、次のとおりです。
- 取得したとき:受渡日に、券面額に基づく価額で資産に計上する
- 期末:券面額に基づく価額のまま貸借対照表に載せる(時価評価はしない)
- 支払い・払い戻しのとき:受渡日に取り崩し、差額があれば損益にする
- 外貨建てのもの:外貨建ての資産と同じように円に換算する
- キャッシュ・フロー計算書:資金の範囲の「現金」に含める
対象は、資金決済法の第1号から第3号の電子決済手段です。JPYCのような資金移動業者型や、JPYSCや3メガバンクが準備しているような信託型が該当します。
暗号資産との違い
ステーブルコインを「暗号資産の一種」と考えると、会計を必要以上に難しく感じてしまいます。主な違いを整理しました。
| 円建てステーブルコイン(第1号〜第3号電子決済手段) | 暗号資産(ビットコインなど) | |
|---|---|---|
| 根拠となる会計ルール | 実務対応報告第45号 | 実務対応報告第38号 |
| 期末の評価 | 券面額のまま | 活発な市場があれば時価で評価し、差額は損益 |
| キャッシュ・フロー計算書 | 「現金」に含める | 現金には含めない |
| 消費税 | 譲渡は非課税 | 譲渡は非課税 |
海外のステーブルコイン(USDCなど)は注意が必要
実務対応報告第45号の対象になる海外発行のステーブルコインは、電子決済手段等取引業者に預けているものに限られます。自社のウォレットで直接持つ場合は対象外です。
2026年6月の府令改正で、海外の信託型ステーブルコイン(第4号電子決済手段)の枠組みが新しく設けられました。ASBJは同年8月、これを第45号の対象に加える改正案を公表しています(2026年10月時点で公開草案の段階)。海外のステーブルコインを扱う予定があれば、どこで保有するのかを、監査法人と早めにすり合わせておくことが大切です。
現場から:日々の処理は補助会計ツールで回る
送金の速さや手数料の安さに魅力を感じても、利用に踏み切れない企業が多くあります。理由として最もよく聞くのは、ウォレットの管理、会計ソフトとの連携、決算への対応が不安だという声です。「特別なスキルを持つチームを抱えなければならないのでは」という心配もあります。
実際には、ステーブルコインを使う日本企業の多くが、専用の補助会計ツールで対応しています。ウォレットにひもづくブロックチェーン上の取引データを自動で取り込み、日本円に換算して、主要な会計ソフト向けのデータとして出力する仕組みです。日々の会計処理そのものに、大きな問題があるわけではありません。
難しいのは、その先です。
壁1:取引の「証跡」をどう示すか
監査では、取引が実際にあったこと、そしてその資産を自社が持っていることを示す必要があります。
ブロックチェーンの取引記録は誰でも見られます。ただし、そのウォレットを自社が管理していることは、記録を見ただけでは分かりません。銀行口座なら残高証明書を取り寄せれば済みますが、ステーブルコインには同じ仕組みがまだ整っていません。
この空白を埋める動きも出ています。アステリアと暗号屋は2026年4月、JPYCの取引をブロックチェーンから直接確かめる監査支援ツール「JPYC Explorer」の提供を始めました。外部のデータに頼らず取引の実在を示したいという、監査の現場の要請に応えるものです。
導入する企業の側で決めておきたいのは、次の3点です。
- どのウォレットが自社のものかを記録し、変更の履歴を残す
- ブロックチェーン上の残高と帳簿の残高を、いつ、誰が照合するか
- 取引データをどのツールで取り込み、どこに保存するか
壁2:秘密鍵の管理と内部統制
ステーブルコインを動かせるのは、ウォレットの秘密鍵を持つ人です。誰が鍵を持ち、誰の承認で送金できるのかは、内部統制の中心になります。
現場から:まじめにつくると、管理体制にはコストがかかる
ステーブルコインを発行・管理する側で、いちばん気を配ったのは秘密鍵とウォレットのセキュリティでした。小さな会社が、秘密鍵の分散管理や相互牽制の仕組みをまじめに作り、維持し続けるのは、大きなコストがかかります。
使う側の企業も、考えることは同じです。ただし、最初から完璧な体制をつくる必要はありません。
- 残高に上限を設ける:ウォレットに置く金額を、業務に必要な分に絞る
- 送金は複数人で承認する:一人では動かせない仕組み(マルチシグなど)にする
- 預けて使う:電子決済手段等取引業者やカストディ(保管)サービスに預ける
「預けて使う」選択は、海外のステーブルコインを会計基準の対象に入れるという点でも意味があります。
壁3:取締役・税理士・監査法人への説明
実は、導入を最も止めているのはこの壁です。
現場から:地方の経営者ほど、説明に苦労している
社内の取締役や、社外の税理士・監査法人に説明し、納得してもらうことに苦労している。この話は、地方の経営者からいまも聞きます。東京ではあまり聞かなくなりましたが、地方ではハードルがまだ高いのが実情です。
苦労の多くは、ステーブルコインが「暗号資産」と同じものだと受け止められることから始まります。値動きの大きい投機的な資産だと思われれば、慎重になるのは当然です。逆に言えば、最初の説明で「暗号資産とは別物」だと伝えられれば、話は大きく前に進みます。
相手ごとに、気にすることは違う
| 説明する相手 | 主に気にすること | 用意するもの |
|---|---|---|
| 取締役会 | なぜ使うのか、損失のおそれ、事故が起きたときの責任 | 導入の目的と効果、残高の上限、鍵と承認の体制 |
| 税理士 | 仕訳、消費税、帳簿の記録 | 会計方針のメモ、取引データの出力例 |
| 監査法人 | 取引の実在、保有の事実、内部統制 | ウォレットの管理台帳、残高照合の手順、使うツール |
説明資料は1枚で十分です。「法律上の位置づけ(電子決済手段であり暗号資産ではない)」「会計方針(実務対応報告第45号に基づく)」「管理体制」「証跡の取り方」の4つを書いておけば、多くの質問に答えられます。
導入前のチェックリスト
- 使うステーブルコインが第何号の電子決済手段かを確認する
- どこで保有するか(自社ウォレットか、取引業者・カストディに預けるか)を決める
- 会計方針のメモをつくり、税理士・監査法人と事前にすり合わせる
- 補助会計ツールを選び、取引データの取り込みと保存の方法を決める
- ウォレットの管理台帳をつくり、残高照合の頻度と担当者を決める
- 秘密鍵の保管方法、送金の承認ルール、残高の上限を決める
- 取締役会向けの説明資料(1枚)を用意する
よくある質問
Q. ステーブルコインは暗号資産として会計処理しますか?
A. 国内の円建てステーブルコイン(第1号〜第3号電子決済手段)は、暗号資産ではありません。実務対応報告第45号に基づき、券面額で資産に計上します。
Q. 期末に時価評価は必要ですか?
A. 第1号〜第3号電子決済手段は、券面額に基づく価額のまま計上します。暗号資産のような時価評価は行いません。外貨建てのものは、期末に円へ換算します。
Q. USDCなど海外のステーブルコインはどう扱いますか?
A. 電子決済手段等取引業者に預けているものが第45号の対象です。自社ウォレットで直接持つ場合は対象外のため、扱いを監査法人と事前に決めておく必要があります。2026年10月時点で、対象を広げる改正案が公表されています。
Q. 消費税はかかりますか?
A. 電子決済手段の譲渡は、消費税が非課税とされています。個別の取引の扱いは、顧問の税理士にご確認ください。
Q. 監査法人には何を説明すればよいですか?
A. 取引が実在すること、そのウォレットを自社が管理していること、残高の照合方法、送金の承認ルールの4点が中心です。ウォレットの管理台帳と照合の手順を用意しておくと、話が進みやすくなります。
Q. 顧問の税理士がステーブルコインに詳しくない場合は?
A. まず「暗号資産ではなく電子決済手段である」ことと、実務対応報告第45号の内容を共有してください。そのうえで、取引データの出力例を見ながら仕訳を一緒に決めるのが近道です。
※この記事は一般的な情報の提供を目的としています。個別の会計処理や税務の判断は、顧問の税理士・監査法人にご確認ください。
参考資料
- 実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」等の公表(EY新日本有限責任監査法人、2023年11月)
- 実務対応報告第45号の改正案等の公表(KPMGあずさ監査法人、2026年8月)
- 令和5年度税制改正における電子決済手段の取扱い(EY税理士法人)
- JPYC Explorer登場—ブロックチェーン監査の「空白」を埋める日本初のインフラ(innovatopia、2026年3月)
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ORADAにできること
ORADAは、ステーブルコインの発行・管理を行う会社の創業と、金融庁登録の暗号資産交換業者での経営の経験をもとに、金融・Web3事業の立ち上げを支援しています。ウォレットの管理体制や承認の仕組みづくり、取引データを会計につなぐシステムの開発まで、税理士・監査法人と連携しながら一つの窓口で進めます。

